サスティナブルコラム

セリウム研究者の川口恒隆さん×勝田小百合による対談イベントレポート
「光による活性酸素への飽くなき挑戦」

セリウム研究者の川口恒隆さん×勝田小百合による対談イベントレポート <br>「光による活性酸素への飽くなき挑戦」

老化の原因の80%とも言われる「光」。光への対策を練ることは、アムリターラの全化粧品を開発する勝田小百合にとって飽くなき課題であり続けました。日焼け止め開発の奮闘の歴史に、まさに希望の光となって差したのが、レアアース原料「セリウム」の存在です。
酸化セリウムの可能性にいち早く着目し、紫外線遮蔽剤として実用化に成功したパイオニアである川口恒隆さんをお招きし、アムリターラ本社でプレス向けに勝田と対談イベントを行いました。その様子をレポートします。
日々蓄積する光の影響

紫外線(UV)の種類は波長の長さによって分かれており、地上に到達する紫外線の約95%を占めるUV-Aの量は5月と真夏でほぼ同じ。UV-Aは強いエネルギーで肌表面に炎症を起こすUV-Bよりも波長が長く、肌の真皮にまで到達してコラーゲンを傷つけ、消えないシワやたるみの原因をつくります。

1年間のUV-A、UV-Bの変化
セリウムイベントレポート

 

しかし、太陽光に含まれる光線のなかで、地球の地表に到達する光には、可視光線(ブルーライトを含む)や近赤外線もあります。それらは、肌の断面図で見ると、紫外線よりも長い波長で肌の本体である真皮にまで深く差し込んでいます。

 

可視光線とは、紫外線や遠赤外線とは違い、人間の目が認知できる電磁波のこと。太陽光以外にパソコンやスマートフォンからも発せられるブルーライトが、可視光線のなかで一番エネルギーが強いとされています。目に悪影響を及ぼすことが知られているブルーライトですが、肌の真皮の深部まで届き、老化を進ませることも分かってきました。

 

太陽光に含まれる光線
セリウムイベントレポート

 

「みんなが気にする紫外線は太陽から降り注ぐ光のたった10%で、40%は可視光線、50%は近赤外線なんです。また、太陽って大きくて強いけど、距離は遠いですよね。スマホやPCはすごく近くで使うので、この距離でじわじわと浴び続ける。これにも対策をしないと、と思うんです」(勝田)

 

一般的な日焼け止めに使われる紫外線吸収剤には、アレルギーや乾燥による肌荒れを起こすリスクがあったり、海のサンゴ礁にも白化などの影響を与えることが指摘されています。そのためナチュラルコスメでは酸化チタンや酸化亜鉛を使うのが主流であるものの、紫外線が当たると活性酸素を発生させる性質があります。また、SPF値を高めたり肌につけたときに白くなりすぎないようにするために粒子を小さくするほど酸化活性が増すことも分かりました。

 

さらに、これらは紫外線にしか効果がないとされています。様々な試行錯誤の末、「白くなりすぎるのも困るし、活性酸素も嫌だ!」と頭を抱えていた勝田が出会ったのが、天然美容ミネラル「セリウム」でした。

 

きっかけはジェルネイル

天然鉱石「バストネサイト」から精錬したレアアースの一種であるセリウム。この自然界のミネラルがすごいのは、紫外線を反射することができて、なおかつブルーライトや近赤外線の一部まで遮蔽できること。ナノ粒子まで小さくしなくても効果を発揮するために、肌につけたときに白くなりにくく、さらに活性酸素を出さないどころか、酸化を還元する力さえあるというので驚きです。

 

そもそもなぜ、川口さんがセリウムに注目し、開発に至ったかといえば、きっかけは20年ほど前に開発した付け爪などに使われる粘着剤にあったそうです。

 

「ジェルネイルが流行しましたが、あれは紫外線硬化剤なんです。固めるときに紫外線を当てますよね。それが爪だけでなく手の甲のほうも広く当たるのが気になり、何か紫外線を遮蔽する材料を、と酸化セリウムの開発に取り組みました。すでに酸化チタンや酸化亜鉛の日焼け止めは市場を席捲していて、活性酸素が出ることもわかっていたので、だったら当時は別のことに使われていたセリウムを化粧品に活かしてみたいと。まだ誰もやっていない点も面白かった。あとから参入する僕らが同じことをやってもね、という思いもありました」(川口さん)

 

酸化セリウムは、元素記号ではセリウムを表す「Ce」にO2が加わって「CeO2」と表される、セリウムの酸化物で、レアアースの一種。天然鉱石にあるほか、東京大学の加藤泰弘教授が進めている研究で、小笠原諸島の南鳥島の海底6000メートルにたまった泥からもセリウムが発見されています。

 

海底深くからの採掘技術は確立しておらず、コスト面でも大きな壁があったなか、政府も海底資源開発に力をいれ、現在もどんどん技術が進んでいるそうです。このような日本産レアアースの特徴としては、「重希土(数あるレアアースのなかでも特に希少で高価である、イットリウム、テルビウム等)の比率が高い」「非常に濃度が高い」「埋蔵量が多い」こと。なんと現在の世界需要の200年分ものレアアースが、南鳥島の海底に眠っているとのことです。

 

「先ほど紫外線吸収剤がサンゴ礁の白化を進める問題について話題に上りましたが、セリウムはこのように海に眠っていて元々一緒に住んでいたような存在なので、安心できるかなと思います」(川口さん)

 

酸化セリウムの電磁波遮蔽

酸化セリウムは、車のマフラーの触媒として排気ガスをきれいにしたり、ガラスを研磨するほか、発展途上国の井戸水などの水質改善にも利用されています。さらに、この対談では電磁波の遮蔽効果があること、活性酸素を消去できる点に注目していきます。

 

光は目に見えないものの、電磁波という波のようなものが出ており、様々な波長の電磁波の集合体。その波長の長さで光の種類を分けると、紫外線(UV)は波長が短く、ブルーライトは長い。それに対する透過率を比較してみると、酸化チタン(グラフの赤線)は短波長には効果があるものの、400~450ナノメートルになると半分以上透過しているのに対し、酸化セリウム(青線)はしっかり遮蔽することがわかります。

※グラフの横軸が波長の長さで単位はナノメートル、縦軸が透過のパーセンテージ

 

酸化チタン(TiO2)、酸化セリウム(CeO2)
の透過率

 

では、実際にどれほどセリウムが光を遮蔽するのか、会場でも勝田と川口さんが実験を行いました。比較対象は、精製水と、青の反対色である黄色の絵具を溶かしたもの。セリウムを溶かした水も、私たちの目には黄色く映りますが、黄色ければ遮断できるのでしょうか。

 

ブルーライトのペンライトを当てると、水はほぼすべて透過し、黄色の絵具は少し効果があるものの透過、セリウムは完全に光を通しませんでした。

セリウムイベントレポート

 

驚きの活性酸素消去力

化学の基礎知識がないと理解しにくいかもしれませんが、と参加者を気遣いつつ、光触媒の電子の動きについて噛み砕いて図解してくださいます。

 

酸化チタンを例にとると、紫外線が当たると電子の1つが伝導帯に移動し、できた穴の部分にヒドロキシラジカルという活性酸素が発生します。

 

酸化チタン(TiO2)の光触媒機構

 

一方、酸化セリウムは光エネルギーに反応して電子が伝導帯に飛んでも、できた穴に電子が戻ろうとする特殊な性質があるため、活性酸素を出さないのです。

 

酸化セリウム(CeO2)の光反応機構

 

また、活性酸素消去力についても詳しく見ていきます。活性酸素にはスーパーオキシド、ヒドロキシラジカル、一重項酸素、過酸化水素の4種類があり、セリウムが過酸化水素を無毒化することは以前から明らかになっていました。そこに、このたび研究が進んだCeriaAというセリウムが、他の3種の活性酸素消去に大きな効果があることが新たにわかったそうです。
ESRという電子スピン共鳴分光装置による測定結果を見ながら、一つずつ確かめていきました。

 

スーパーオキシド消去

DMPO(0.67 M)を用いてO2-•を検出した結果を示す(n>2)。
エラーバーは標準偏差を示す。

 

ヒドロキシラジカル消去

DMPO(10 mM)を用いてO2-•を検出した結果を示す(n>2)。
エラーバーは標準偏差を示す。

 

一重項酸素消去

TPC(5mM)を用いてO2-•を検出した結果を示す(n>2)。
エラーバーは標準偏差を示す。

 

いずれの活性酸素にも、CeriaAが非常に優秀な消去効果を持つことがわかります。この発見から、化粧品原料としてのセリウムの可能性もさらに広がりました。

 

「例えば公園の遊具に塗る塗料のようなものは、紫外線吸収剤に、HALSという活性酸素消去剤を加えないと劣化を防げず、何十年も持たせることができません。人間の日焼け止めも同じように、光を遮断しながら活性酸素を除去する、この2つを同時に叶えることによって次世代のものへと進化していくと考えています」(川口さん)

 

内側から輝くスイーツ

セリウムイベントレポート会場では、イベントの最後に開発課・亀山によるお茶とスイーツが振舞われました。ルテイン、ポリフェノール、SOD酵素など、あらゆる自然の力で光による酸化活性に備えているアムリターラのフーズやサプリメントを活かした、「内側から輝く」をテーマにしたドリンクとチョコレートです。

 

〈ドリンク〉
沖縄アロエベラの贅沢あら搾りをベースに、ビューティ クリア ブライト(キャッツクロー、松樹皮、カンカ、レッドオレンジ、ワカメ、マキベリー、クチナシ)、ボタニカル ビタミンC+グリーンアルジー(アセロラ、葉酸酵母、テトラSOD®)、マリンコラーゲンなどのサプリメントを加え、山ぶどう果汁やレモン果汁で味を調えたもの。

 

〈チョコレート〉
カカオバターにマリーゴールド ルテイン プレミアム(マリーゴールド、ブアメラ、アロニア、カシス)を溶かしたものと、アーモンドプードル、ココナッツフラワー、自然卵の卵白でできたマジパンの2層に分け、菊芋シロップ、野生の黒はちみつ、アガベシロップなどの甘味が加わっています。

 

「セリウムイベントレポート

 

川口さんがセリウムを化粧品原料として開発しようと考えたとき、従来の日焼け止めに問題を感じ、活性酸素を生まず、環境を壊さない日焼け止めの開発に取り組んでいる勝田の存在を知り、連絡をくださったのが二人の出会い。勝田にとってセリウムという夢のような原料に出会えたことは願ってもないことであり、川口さんにとっても「セリウムのすごさを、この人ならわかってくれるだろう」という思いがあったそうです。

 

専門的な知識を噛み砕いてもらいながらも、とことん濃く深い内容だったこのたびの対談イベント。終始息のあった様子のお二人を見ながら、必然の出会いに喜びを覚えました。

川口 恒隆(かわぐち・つねたか)さん
株式会社applause 専務取締役
株式会社applausePharma 代表取締役

セリウム化合物の可能性にいち早く着目。紫外線遮蔽剤として実用化に成功したパイオニア。東京科学大学(東京工業大学)と基礎実験を進め、セリウムの抗酸化能力のエビデンスを取得し、論文発表を行う。 その後、医学応用を見据え株式会社applause Pharmaを設立。三井金属鉱業株式会社や各大学と共同研究契約を締結し、産学連携エコシステムを構築。各社のセリウム合成ノウハウを活用した創薬事業を展開する。