私が絵を描くとき、明確な対象はなく、目の前にある植物や、その時湧き上がるものを、自然に任せて描きだすようなスタイルなのですが、意図せずタロットの図象に似ることがたびたびありました。これまでの人生で深く関わったこともない、カードも手元にないのに、タロットに似た構図が出てくるのはなぜなのだろう。そんな興味から学んでいくと、占いツールだと思っていたタロットカードは、人生の道行きであり、個々のカードに込められた意味は受け手側に委ねられる要素も多いことを知りました。カードを描いた人とそれに向き合う人の、時代を超えたコミュニケーションなのだと。
これまで勝田さんの化粧品開発を通した表現を拝見してきて、無から有を生み出す錬金術のようだと感じていたんです。タロットの起源ははっきりとしていませんが、現在世界的に広く使われているタロットデッキ「ライダー版(ウェイト・スミス版)」が生まれた1900年初頭のイギリスでは、知識階層が神秘結社のような形で集まり、魔術的なものも含めて様々な学びを共にし、タロットは精神的な成長を学ぶために使用されたそうです。彼らの学びのなかには錬金術も含まれていたことに思い当たったとき、「描けるかもしれない」という思いが、確信に変わりました。
それで最初の打ち合わせで、ポーチのデザインにタロットの構図や意味を組み合わせてみるのはどうでしょうか、と提案してみました。すかさず勝田さんが、「私もタロットカードが大好きで、かつてタロット占い師もやっていたくらいです」とおっしゃって、さすがに驚きましたね(笑)。